にわかじこみの一般人。

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【考察】漫画の伏線について

長期連載の漫画作品において、しばしば、「この演出はすごい!凄い伏線だ!」「いや、これは伏線じゃない、後付けだ!」という論争が読者の間でしばしば起こることがある。

 

考え込まれたように見える驚きの展開が、はたして作者がはじめから考えた伏線なのか、それとも後から思いついて辻褄が合うように新しく追加しただけの伏線なのか、それを正確に知る術は俺たち読者にはない。明らかにこれは第1話の時点から考えられてなきゃ絶対不可能だとハッキリわかるような伏線が、前々から仕込まれていた場合はやっぱりとても感動するけれども、そうじゃなくてこれは伏線か後付けかどっちでも取れるなっていう場合は、もはや俺たちに判断する術がない。

 

そもそも漫画家自体、「バクマン」で描かれていたように、たまたま伏線っぽくなっちゃった前半の描写を、後から上手く利用する漫画家もいれば、冨樫 義博 のように、伏線になりえる描写を前半で思いつく限り張れるだけ張りまくって、後から使える描写だけ拾い上げて、残りは何のフォローもなくバッサリ切り捨ててしまうような漫画家もいる。

 

「伏線漫画と言えばこの人!」というくらい伏線の張り方が上手い人と言えば、『うしおととら』『からくりサーカス』の 藤田 和日郎 だが、彼は自分の著書の中でこんなことを言っているらしい。「伏線それ自体は何もすごいことじゃない。それによって "漫画が面白くなること" が重要なんだ」

 

つまり、「伏線」ってのはそもそも「面白さ」のためのスパイスでしかない。だから、その伏線が後付けだろうが前々から考えられていたものであろうが、その伏線回収の場面が面白ければそれでいいし、つまらなければいかに話の完成度が高くても何の意味も持たないってことだ。ただ、前後の整合性が取れてなかったら読んでて冷めてしまったりするし、衝撃の場面を読んだあと「そういやあんときのあれってそういうことだったのか…!」って気付いたら二重に楽しめるから、『回収の場面が面白い』ことが前提の上で、伏線の完成度が高いにこしたことはない。

 

ただ、作者がいかに前もって考えていようと、大多数の読者に「いや、これって後付けでしょ」って思われてしまったら、それは後付けのしょっぱい伏線と同義だし、作者がその場の思い付きで書こうとも、大多数の読者に「伏線すげえええええ!」って言わせられたら、それはもう最初から綿密に考えていたのと同じくらい凄いことだと言っていい。漫画は作者がどういう真意で描いているかではなく、読者がどう受け取るかが全てなのだから。

 

最も、今はネットで凄まじい数の読者が全員情報共有をしながら漫画の内容を細かく考察して公開している時代だ。そんな中で後付けの伏線で読者を騙すには相当技量が必要になる。でも、世の中それをやってのける漫画家が存在するのも事実だからすげぇよなぁ。

 

そもそも、「この描写が伏線か後付けか」っていうことが問題になるのは、漫画以外のメディアではありえない。

 

なぜなら、「未完成の作品を順次世に出していく」というスタイル自体が、漫画以外にあり得ないからだ。

 

映画も小説もゲームも全て、結末まで完成したものが世に出される。もちろん2や3や続き物が次々出るものは沢山あるし、その間では伏線か否かは問題になるけど、その作品単品では完結するように必ず作られる。

 

そうなると、ストーリーの作り方も、書いたり作ったりしながら、後半を書き上げているときに新しい伏線を思いついたら、前半にその伏線を張り直すことができる。結末まで書いてから、入り口の描写を修正することだってできる。だから、世に出た時点でその作品内に描かれている描写は全て考えて描かれているものになるし、伏線か後付けかが問題になることはない。

 

漫画だけだ。スタートから1章が完結すらしていない状態で世に出て、その後作者が行き当たりばったりで展開を変えていったり、途中で結末を変えていくのは漫画だけなんだ。*1だから、伏線が「前々から考えられていたもの」か「後付け」かが問題になるのも、漫画だけ。これは、非常に面白い問題だと思う。

 

だから何が言いたいかというとまぁ別に何でもないんだけど、俺は伏線漫画が大好きで、漫画の伏線についてネットで調べていると、伏線に関して「すごい!」「いや後付けだ!」って議論をよく見るから、そういえばこういう議論が起こるのが漫画だけだなって思ってよくよく考えてみたら、映画もゲームも小説も完成したものが世に出るのに、漫画だけは未完成なものが世に出てくるなと。この漫画というメディアの特殊性ってすごい面白いなと思っただけ。

 

何で漫画だけなんだろうね。ドラマだってオリジナルアニメだって1年とか続くやつあるけど、あれだって結末は最初から決まってるもんなぁ。場合によっては撮り終わってから放送するし。何で漫画だけが先が何も決まっていない状態で連載していくんだろう。

 

不思議だなぁ。

 

*1:連載小説というのもあるじゃないかと思われるかもしれないが、世の人のほとんどが連載形式の小説など読んではいないし、本として出版されるときにたいてい大幅に加筆修正されて別物になるので、ここでは除外する。