はじめの一歩
18歳の夏、この漫画に出会ったとき、俺は貪るようにこの傑作を読んだ。
朝の6時から漫画喫茶に出向き、夜の21時までノンストップでぶっ続けで読み続け、
全巻読み終えたら、また1巻から2周目を読み始めた。
浪人時代だったから、月から土までは我慢して、
日曜日になるたびに、わくわくしながら漫画喫茶に通った。
あらすじ
気弱ないじめられっ子である「幕之内 一歩」は、ある日、通りがかったプロボクサー「鷹村 守」に助けられたことで、強さに憧れ、プロボクサーになることを心に決める。鷹村の課した試練を見事クリアした一歩は、その才能を見込まれ、鷹村の所属する鴨川ジムに入門する。そこで待っていたのは、生涯のライバル「宮田 一郎」との出会いだった———。
作品解説
はじめの一歩は、ボクシング漫画です。
当たり前だけど、それ以上でもそれ以下でもないぐらい、
とにかくストレートにボクシング漫画。
ボクシング漫画の開祖である「あしたのジョー」ですら、
最初は少年院からスタートしたり、
主人公が自分を見失って放浪する期間があったりしたけど、
はじめの一歩は主人公が早々にプロボクサーになって、
以降はとにかく次々と現れるライバルたちと試合、試合、また試合。
そして、その全てが、文句なく熱い。
そんなシンプルで熱いボクシング漫画であるはじめの一歩。
その魅力を、3つの観点から解説してみよう。
※筆者は121巻中70巻までしか読んでいないので、既読の人はそのつもりで読んでネ
① 毎試合が「負けられない戦い」
SLAM DUNK のような、高校生が主人公のスポーツ漫画の場合、
負ければそこで引退なわけだから、
読者に「負けられない戦い」の緊張感を理解してもらうのは比較的簡単だ。
でも、プロスポーツ漫画の場合、負けてもまた次の試合があるわけだから、
1試合1試合に「負けられない戦い」の緊張感を持たせる難易度は上がる。
なのに、はじめの一歩は、全ての試合に
「絶対に負けるわけにはいかない」というスリルをしっかりと持たせている。
それは、負けられない理由付けや試合までの話運びが上手いのはもちろんあるけど、
それ以上に、ボクシングの練習が凄まじく過酷で辛く苦しいものであること、
そして、そんな練習を乗り越えてでも夢を叶えたいという登場人物たちの表情を
しっかりと描き切っているからだろう。
とにかくもう、死ぬほど苦しい練習を乗り越え、
きらきらした瞳でチャンピオンベルトへの想いを語る、
一歩や鴨川ジムのメンバー。
彼らに対する、
「頼むから勝ってくれぇぇぇえええええええええ!!!」
という想いが、最高潮に膨らんだ状態で、
満を持して試合がはじまるんだから、面白くないわけがない。
この感情移入のさせ方の上手さが、この漫画最大の魅力の一つなんだと思う。
② 主人公もライバルたちもとにかく強い!
いや、漫画の主人公やライバルがみんな強いのは当たり前なんだけど、
読者にどうやったら「強えー!」と思ってもらえるかはまた別の話だ。
そして、その部分がはじめの一歩はすさまじく上手い!
一つは絵の上手さ、演出の上手さ。
パワータイプのボクサーの大砲みたいなパンチ、
スピードタイプのボクサーの忍者みたいなステップとレーザーのようなパンチ、
トリッキーなボクサーの鞭のようにしなるパンチ、
それらがそれぞれ、本当に大砲やレーザーや鞭のように迫力ある演出で描かれるから、
一発一発が「うわ、ものすごく強いんだろうなぁ、これ…!」という
説得力をもって伝わってくる。
もう一つは、それぞれの選手が持つ特技や性質にきちんと理屈があること。
漫画って「漫画的な屁理屈」*1 がすごい大事なんだけど、
はじめの一歩はそれがすごくしっかりしている。
「あいつの必殺技はこういう理屈で打ってるから、こういうパンチになるんだ。
そしてそれを成しえるのは、この部分の身体能力が優れているからだ」
みたいな、読者を納得させるロジックが上手い。
絵と文の両面で、主人公が、仲間が、ライバルが、強いってことを、
説得力と納得感を持たせて伝えてくるから。
この漫画の試合は爽快感と緊迫感があるし、面白い!
③ 試合のクライマックスはとにかく感動する
とにかく毎試合が負けられない戦いだから、
試合のクライマックスの登場人物の行動には毎回めちゃくちゃ魂を揺さぶられる。
主人公もライバルも、とっくに限界を超えているのに、
鬼気迫る表情で最後まで踏ん張り続けるその姿には、涙が止まらない。
足を引き摺りながらも相手を圧倒する者、
気を失ってもなお闘い続ける者、
仲間に支えられていることに気付き息を吹き返す者、
あぁもう、こうして言葉にすると全部陳腐になってしまう!
はじめの一歩の、試合決着間際の選手たちの鬼気迫る表情と行動のその凄みは、
ぜひ実際に読んで体感してほしい。
まとめ
まとめると、
夢を追い、絶対に負けられない戦いに挑む男たちの、
その強さを、迫力ある絵とハッタリの利いた理屈で彩り、
激闘のクライマックスでしっかりと泣かせにくる漫画。
熱くなりたい、ハラハラしたい、泣きたいなら、
文句なくオススメの漫画だ。
最後に
全試合熱いが、
特に44巻収録の『鷹村 守 vs ブライアン・ホーク』の一戦は、
間違いなく漫画史に残る屈指の名勝負。
はっきり言って、この一戦を読むためだけに
44巻という漫画としては比較的長い旅路を歩む価値はある。
自分を漫画読みだと自称するなら、
この全漫画史上十本の指には入るであろうベストバウトを見逃すな!
~バティ漫画ランキング(少年時代編)第4位『はじめの一歩』~
*1:よくよく考えると現実の物理法則を無視していたり無理があるけど、パッと聞き何か筋が通っているように聞こえて納得してしまう、漫画の中だけで通用する理屈のこと